適正技術フォーラム設立記念国際会議を開催しました
適正技術フォーラムは2017年11月5日に正式に設立されることとなったのですが、11月4日(土)、5日(日)には、設立記念となる国際会議「持続可能な開発のための適正技術の新たな展望」を開催しました。国際会議は、市ヶ谷のJICA地球ひろば国際会議場にて行われ、2日間で延べ151名が参加されました。
この国際会議は、国内外から適正技術分野の活動に取り組む講師の方がたをお招きして、適正技術分野での実践を踏まえつつ、今後の持続可能な開発において適正技術の果たす役割について議論をするものです。
【第1日目】
第1日目は、日本人講師4名より、さまざまな国での適正技術開発への取り組みについて報告がなされました。1日目はCSOネットワーク事務局長・SDGs市民社会ネットワーク代表理事の黒田かをりさんの司会により、進行されました。
講演に先駆けて、適正技術フォーラム準備委員会を代表して、APEX代表理事の田中直が適正技術フォーラム設立にかかわる経緯と国際会議について説明を行いました。ここでは、世界が現在直面している問題群と、これまでの線的な近代化の限界が指摘され、それを乗り越えるために要請される技術体系として、適正技術の概念が提起されました。
1つ目の講演では、東北大学教授の原田秀樹氏より、「エネルギー最小消費型の新規の下水処理技術の開発と展開―インド、エジプト、日本での実施例―」というテーマで、DHS(Dwon-flow Hanging Sponge)という吊り下げ式の海綿を用いた排水処理技術の内容や開発経緯が紹介されました。インド、エジプト、日本での実証事例を元に、嫌気性処理技術(UASB:Upflow Anaerobic Sludge Blanket)とDHSを組み合わせたものが、安価で効率的かつ運転も容易なシステムとして適用可能であることが示されました。
次に、髙倉環境研究所代表の髙倉弘二氏に、「『高倉式コンポスト』の技術の開発と普及」というテーマで講演いただきました。2004年に、インドネシア・スラバヤ市での廃棄物減量化・資源化プロジェクトにて開発した「高倉式コンポスト」の技術の開発経緯を例として、技術を現地に根付かせるための考え方や、住民が自分たちで廃棄物減量化に取り組む時の原動力などについても、お話をいただきました。
休憩をはさみ、ヤマハ発動機株式会社の西嶋良介氏より、「途上国の村落向け小規模上水供給システムの開発と普及」というテーマでご講演いただきました。上映した動画では、アフリカ現地への装置の設置にあたって、調査や組み立てなどを住民参加型で実施していることがわかりました。
1日目の最後は、地球環境戦略研究機関顧問の西岡秀三氏より、「炭素中立世界でのブータンのリープフロッグ発展の可能性」をテーマにご講演をいただきました。講演では、わたしたちが直面する気候変動の問題についてのこれまでの研究成果が紹介され、これから私たちが炭素中立世界を目指すことは避けられないことが強調されました。そのような状況で、地域主導・自律分散型ネットワークにおけるエネルギー利用の技術体系として、適正技術の果たす役割への期待が述べられました。
【第2日目】
第2日目は、インドネシア、イギリス、インドからお招きした講師にもご登壇をいただき、英⇔日の同時通訳付きでの講演、講師によるシンポジウム、そして適正技術フォーラム設立記念セレモニーの三部構成でした。司会は、APEXの塩原が務めさせていただきました。
午前の部の最初の講演は、特定非営利活動法人APEX代表理事の田中直より、「近代技術的要素を活用した革新的適正技術の開発―インドネシアにおける排水処理とバイオマスエネルギー事業の事例から―」と題して発表がありました。排水処理やバイオマスエネルギー分野のAPEXの取り組みから、マルチセクターにおける技術革新のプロセスが紹介されました。また、持続可能な未来を実現するために、これからの技術開発において重視されるべき基本理念が提起されました。
次に、これまで様々な事業でAPEXと協力関係を結んできたディアン・デサ財団ディレクターのアントン・スジャルウォ氏より、「コミュニティベースの住民参加型技術を用いた貧困の解消―インドネシアにおける水供給、小産業開発の事例から―」と題して、インドネシアのムンティグヌンにおける地域開発についてお話がありました。発表では、貧困問題は複数の要因から発生していることを前提とした場合、その解決は水供給などの単一の技術によってはなされず、小産業の開発やマーケティングなども含めた複合的・発展的な支援が必要とされることが主張されました。
お昼休憩をはさみ、3つめの講演として、英国のNGOであるプラクティカル・アクションで10年間CEOを務めていた、サイモン・トレース氏より、「技術的公正―持続可能な発展に向けてのテクノロジー・ガバナンスへの挑戦―」と題した報告がなされました。サイモン氏の正義論はロールズに依拠していて、アクセス、利用、イノベーションの3つの側面から、世界の持続可能性を脅かす技術的な不公正を指摘し、それらの調整に、市場だけではない新たなガバナンスが必要とされていることが主張されました。
続いて、インドのARTI(Appropriate Rural Technology Institute)代表のM.S.シドヘシュワール氏より、「適正技術を用いた住民のためのエネルギー供給―インドにおける農業廃棄物からのバイオチャー・バイオブリケット生産―」として、同団体がインドで取り組むバイオマス関連事業について報告がありました。報告では、住民の慣習に従ったバイオマス燃料の選択や、バイオマスの性状に合わせた調理用コンロなどについて、実際の製品の開発経緯なども説明しつつ、紹介されました。
最後の講演として、国際協力機構(JICA)理事の加藤宏氏より、「JICAの国際協力の歩みと適正技術」と題した発表がありました。加藤氏は、日本の技術協力が、技術移転から問題解決アプローチ、キャパシティディベロップメント、ビジネスモデル構築などへと変化していった歴史を紹介いただきました。また、これまで実施された適正技術関連プロジェクトの成功例として、KAIZEN movement(改善運動)や母子手帳普及活動など、ソフト面が重視されているケースを挙げられていたことも印象的でした。
全講演が終了すると、シンポジウムへと移行しました。シンポジウムでは、京都大学教授の水野広祐氏を座長に迎え、2日目の講師をパネ ラーとして、今後の持続可能な開発において必要とされる適正技術について、それぞれからコメントが述べられました。また、フロアーの参加者からも活発な意見をいただきつつ、適正技術という概念のもとで、これから本当に必要とされる技術をこのフォーラムで考え、実践していくことの重要性が再確認されました。
シンポジウム後は、適正技術フォーラムの設立を記念したセレモニーを行いました。主催者代表として、足利工業大学理事長・名誉教授の牛山泉氏、来賓代表としてディアン・デサ財団のアントン・スジャルウォ氏にそれぞれあいさつをいただき、会場からの祝福の拍手の中で、テープカットとともに適正技術フォーラムの正式な設立が宣言され、国際会議の全プログラムが終了しました。