適正技術の定義について
適正技術については、これまでさまざまな個人・団体が、それぞれの立場・考え方で定義しており、定まった定義というものはありません。
もともと、適正技術を定義することが重要なのではなく、大事なことは、これからの世界に必要とされる技術は何かを考え、それを実践していくことに他なりません。
それでも適正技術という用語を使うのは、これまでこのことばをめぐって議論・実践されてきたことが、今後の持続可能な世界の形成にまさに必要とされる技術のエッセンスを、多々含んでいると思われるからです。
そのような観点から、これまでの適正技術論の中から、本質的に重要と思われる論点を、以下にあげてみます。
- 適合性~ニーズと条件に応じた最適資源配分
資本節約(Schumacher 1, Reddy, Ken Darrow)、雇用創出(Schumacher 1, Reddy, Ken Darrow, ILO)、地元の材料の利用(Reddy, Ken Darrow)、ベーシックニーズの充足(ILO)、地方分散型工業/先進技術的工業の有機的結合(UNIDO)、特定の場面のpsychosocial/biophysicalな条件に適合(Willoughby) - 人々によるコントロール・住民の主体的参加
住民参加(Schumacher 2, Ken Darrow)、理解・制御可能性(Ken Darrow)、自立性(Reddy, Ken Darrow)、人間主体・機械に従属しない(Schumacher 2、Reddy)、住民によるinnovation/modification (Jaquier, Ken Darrow)、コミュニティの生産能力を高める(Akubue) - 環境調和性
環境調和性(Schumacher 2, Reddy, Ken Darrow)、資源節約的・リサイクル(Schumacher 2, Reddy)
それらをふまえつつ、このフォーラムでは適正技術を下のように(作業仮説として)定義しておきたいと思います。
『技術が適用される(主に途上国の)現場の社会的・経済的・文化的条件に適し、多くの人々が参加しやすく、環境の保全や修復にも資する技術』
この定義あるいは概念自体が、フォーラムの議論の中で精錬され、磨かれていくべきものです。
※留意すべき点
- 適正技術に属する技術群とそうでない技術群があらかじめ決まっているわけではありません。(コンテクストが適正技術の生命です)
- 「安価だが、簡素で低レベルの技術」という固定観念に陥りやすいですが、そのようなものではありません。
- 途上国開発と近代科学技術批判の二つの文脈で論じられ、実践されてきました。
(田中直)
[出典]
- Schumacher, E. F., Small is beautiful, Sphere Books, 1974 (二種類の定義があり、
“Schumacher 1”、”Schumacher 2”とした) - A.K.Reddy 「適正技術の諸問題」(里深文彦、「もうひとつの科学、もうひとつの技術」現代書館、1985を参照した)
- Ken Darrow et al. Appropriate technology source book volumeⅡ, A volunteers in Asia Publication, 1981
- ILO、UNIDOについては、吉田昌夫編『適正技術と経済開発』アジア経済研究所、1986を参照した。
- Kevin W.Willoughby, Technology Choice – A Critique of the Appropriate Technology Movement, West View Press, 1990
- Jequier, N., Appropriate Technology – Problems and Promises, OECD, 1976
- Anthony Akubue, Appropriate Technology for Socioeconomic Development in Third World Countries, The Journal of Technology Studies, XXVI (1), 2000
[参考図書]
- 田中直著『適正技術と代替社会――インドネシアでの実践から』岩波新書、2012